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大阪地方裁判所堺支部 昭和58年(カ)5号 判決 1985年6月26日

再審原告(当庁昭和五八年(タ)第三三号離婚無効確認請求事件被告)

甲山花子

右訴訟代理人

岡田隆芳

再審被告(当庁昭和五八年(タ)第三三号離婚無効確認請求事件原告)

乙田太郎

主文

一  当裁判所が当庁昭和五八年(タ)第三三号離婚無効確認請求事件について同年一〇月二七日に言渡した判決を取消す。

二  右事件における原告(再審被告)の請求を棄却する。

三  右事件の訴訟費用及び本件再審の訴訟費用はすべて右事件の原告(再審被告)の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  再審請求の趣旨

主文と同旨。

二  再審請求の趣旨に対する答弁

1  本件再審の請求を棄却する。

2  本件再審の訴訟費用は再審原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  再審請求について

1  再審原告の主張

(一) 確定判決の存在

再審被告を原告、再審原告を被告とする当庁昭和五八年(タ)第三三号離婚無効確認請求事件(以下「原訴訟」又は「本案」という。)について、当裁判所は、昭和五八年一〇月二七日、「昭和五七年八月一七日付富田林市長に対する届出による原告(再審被告・以下「再審被告」という。)と被告(再審原告・以下「再審原告」という。)との協議離婚は無効であることを確認する。訴訟費用は再審原告の負担とする。」との判決(以下「原判決」という。)を言渡し、原判決は同日再審原告にその正本が公示送達され、同年一一月一一日控訴期間の満了により確定した。

(二) 再審事由

(1) 再審原告は、昭和四三年四月一〇日再審被告と婚姻し、昭和四四年八月一三日長女はつ子をもうけたが、再審被告は、粗暴で短気な性格で、暴力行為、脅迫等の前歴一〇回を重ね、再審原告に対しても結婚当初からしばしば暴行に及んだため、再審原告はたまりかねて再三離婚を考えたが、生活への不安と離婚を申し出た時に加えられるであろう再審被告の暴力を恐れて言い出せないでいた。

(2) ところが、昭和五七年六月、再審被告が富田林市民病院に入院して手術を受けたため、再審原告は、この機会に離婚しようと考え、同月一五日、同病院の病室において、再審被告に離婚の申し出をしたところ、再審被告はこころよくこれを承諾し、再審原告の差し出した離婚届用紙の本籍、夫の父母の氏名及び続き柄欄に自ら記入し、届出人夫の署名押印欄に署名押印した。

(3) そこで、再審原告は、同年八月一七日離婚の届出をする一方、長女はつ子と共に再審被告のもとを出て堺市○○○町○丁○○番地○○○○荘○○号室において生活していたところ、再審被告は、同年一二月三日午後一〇時ころ、突然右再審原告方に押しかけ、「便所の消火器でドアを打ち破るぞ。」などと怒鳴つたため、アパートの管理人に頼んで警察官に来てもらいその場はおさまつた。

(4) ところが、昭和五八年二月八日ころ、再審被告が右○○○○荘○○号室の再審原告方へ土足で上り込み、再審原告を押し倒して首を締めたり、所携の手斧を示したりして脅迫したため、再審原告は再審被告の乱暴を恐れて、同月一一日ころ右居室を引き払い、かねて結婚の約束をしていた甲山一郎(以下「甲山」という。)を頼つて、柏原市○○○丁目○番○○号の同人方に転居した。

(5) しかるに、その後間もなく、再審被告より「殺してやる。」などと脅迫の電話がかかるようになつたため、再審原告と甲山は、身をかくすべく同市○○○×丁目○○番○○号に購入した家に移り住んだが、やがてここも再審被告に発見されたため、再審原告は、一旦再審被告方に戻つて話をつけようとして同人方に赴いたが、乱暴されただけで話し合いにならなかつたので、再び甲山方に逃げ帰つた。

(6) その後長女はつ子が電話で「お父さんが殺したると言つて斧を研いでいる。」などと連絡してきたので、再審原告は、危険を避けるためホテルに宿泊していたところ、再審被告は、同月二二日午前七時ころ、手斧を持つて右甲山方に赴き、玄関のガラスを打ち破つて押し入り、その場に居合わせた甲山の母甲山ツネ(以下「ツネ」という。)に対し、「花子がおるやろ。どこへ行きやがつたんや。」などと怒鳴りつけ、同女の頭髪をつかんでゆさぶり、顔を床に叩きつけ、足蹴りする等の暴行を加え、同女に二週間の加療を要する頭部打撲、頸部捻挫、右前胸部打撲、右膝部打撲の傷害を負わせた。

(7) 再審原告と甲山は、再審被告が手斧(刃渡り、一四・四センチメートル)やロープの付いた碇を持ち歩いており、ツネにまで右のような行為に及んだのを見て、いよいよ自分たちにも危険が迫つたものと畏怖し、その日はホテルに避難したが、その後も再審被告がツネのアパートに電話をかけて再審原告の所在場所を尋ね、「おまえを殺しに行く。」などと言つて脅したため、右傷害事件の捜査を担当していた柏原警察署岡田刑事のすすめもあつて、親きようだいにも知らせずに身を隠し、それ以後は誰からも再審原告に連絡をとることができなくなつた。

(8) 再審被告は、公示送達によつて訴訟手続を進めることにより有効な判決を取得することができることを知り、甲山の親や親戚の者に脅迫の電話をかけた際にも、原訴訟のことについては一言もふれず、原判決が確定した後の昭和五八年一一月一五日ころ、はじめて甲山の親戚の者にその旨電話で知らせた。

(9) 再審被告は、ツネに対する右(6)の行為により、昭和五九年四月一六日羽曳野区検察庁から傷害罪で略式起訴され、羽曳野簡易裁判所において略式命令により罰金一〇万円に処せられ、右略式命令は同年五月一五日確定した。

(10) 以上のとおり、再審被告は、自己の暴力行為により再審原告が身を隠したことを利用して公示送達により自己に有利な判決を得ようとしたものであるところ、再審原告は、再審被告の刑事上罰すべき行為により原判決に影響を及ぼすべき攻撃防禦方法の提出を妨げられたものであり、しかも、再審被告は、右行為につき有罪の裁判を受け右裁判は確定したから、これは民訴法四二〇条一項五号の再審事由に該当するというべきである。

(三) よつて、再審原告は、原判決の取消を求める。

2  再審原告の主張に対する認否

(一) 再審原告の主張(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実について

(1) (1)の事実中、再審原告と再審被告が昭和四三年四月一〇日婚姻し、二人の間に長女はつ子をもうけたこと、再審被告が暴力行為、脅迫等の前歴一〇回を重ねたこと及び再審被告が再審原告に暴行を加えたことは認めるが、その余の事実は争う。

(2) (2)の事実中、再審被告が入院して手術を受けたこと、再審原告が病室において再審被告に離婚の申し出をし、離婚用紙を差し出したこと及び再審被告が右離婚届用紙に署名をしたことは認めるが、その余の事実は争う。再審被告は、再審原告が離婚を求めてヒステリックにわめき散らしたので、他の患者への遠慮もあつて、離婚する意思がないのに離婚届用紙に署名をしたものである。

(3) (3)の事実中、再審原告が昭和五七年八月一七日離婚の届出をし、長女はつ子と共に再審被告のもとを出て○○○○荘○○号において生活していたこと、再審被告が同年一二月三日午後一〇時ころ再審原告方に赴いたこと及びアパートの管理人の要請により警察官の出動があつたことは認めるが、その余の事実は争う。

(4) (4)の事実中、再審原告の転居の原因が再審被告の乱暴にあることは争い、その余の事実は認める。

(5) (5)の事実中、再審被告が「殺してやる。」などと脅迫の電話をかけたことは否認し、その余の事実は認める。

(6) (6)の事実中、長女はつ子が電話をかけたこと及び再審原告がホテルに避難していたことは不知、再審被告が昭和五八年二月二二日午前七時ころ、甲山方に玄関のガラスを打ち破つて入り、その場に居合わせたツネに暴行を加え、同女に傷害を負わせたことは認めるが、その余の事実は争う。

(7) (7)の事実中、再審被告がロープの付いた碇を持ち歩いていたこと、再審被告がツネに電話で再審原告の所在を尋ねたこと及び再審原告と甲山が身を隠したことは認めるが、再審原告が身を隠したのは岡田巡査部長のすすめによるものであること及び再審原告に連絡をとることができなくなつたことは不知、再審被告がツネに対し「おまえを殺しに行く。」などと電話で言つたことは否認する。

(8) (8)の事実は否認する。

(9) (9)の事実は認める。

(10) (10)の事実は争う。

二  本案請求について

1  請求原因(再審被告)

(一) 再審被告と再審原告は、昭和四三年四月一〇日に婚姻して夫婦となつたものであるが、昭和五七年八月一七日付富田林市長に対する届出をもつて協議離婚(以下「本件離婚」という。)をした旨戸籍に記載されている。

(二) しかしながら、本件離婚は、次のとおり再審被告の意思に基づかないものであるから無効である。

(1) 再審被告は、昭和五七年五月六日胃潰瘍により入院し、同年六月二日手術を受け、その後一週間位して四人部屋に移つたところ、再審原告は、右転室の翌日ころ再審被告の枕元に来て、いきなり離婚届の用紙を出し、ヒステリックにわめき散らしたり、カーテンを引きちぎらんばかりにして再審被告に対し離婚を応ずるよう要求した。

(2) 再審原告は、それまでにもしばしばひどいヒステリー症状を起こしたことがあり、手術後で体力及び精神力が極度に低下していた再審被告は、同室の他の患者に対する遠慮もあつて、離婚の意思など毛頭ないのに、再審原告を退室させるためにやむなく右離婚届用紙に形だけの署名をした。

(3) ところが、再審原告は、その後無断で右離婚届用紙に再審被告の印を押捺するなどしたうえ、これを富田林市長に提出したものであり、このようにしてなされた本件離婚は、再審原・被告間の離婚の合意に基づかない無効のものである。

(三) よつて、再審被告は、本件離婚が無効であることの確認を求める。

2  請求原因に対する認否

(一) 請求原因(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実中、再審被告が入院して手術を受けたこと、再審原告が離婚届用紙を持つて再審被告の病室を訪れ離婚の申出をしたこと、再審被告が右離婚届用紙に署名したこと及び再審原告が右離婚届を完成して富田林市長に提出したことは認めるが、その余の事実は否認する。再審被告は、再審原告の頼みに応じてこころよく右離婚届用紙の届出人署名押印欄に署名押印し、本籍、夫の父母の氏名及び続き柄欄も自ら記入したもので、本件離婚は再審原・被告間の合意に基づくものであり、有効である。

3  抗弁(再審原告)

仮に本件離婚が再審被告の意思に基づかないものであるとしても、再審被告は、昭和五七年一一月一八日、再審原告が再審被告方を訪ねて株式会社○○○○に勤めるための保証人となつてくれるよう依頼した際、本件離婚の届出がなされていることを認識のうえ、「別れた女だからこれつきりやで。」と言つて保証人となることを承諾し、同社に提出する念書の連帯保証人欄に署名押印し、再審原告との続柄を「友人」と記載し、これによつて本件離婚を追認した。

4  抗弁に対する認否

抗弁事実は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一再審請求について

1  再審原告の主張(一)の事実は原訴訟の記録によつて明らかである。

2  再審事由について

(一)  <証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、<反証排斥略>、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 再審原告は、昭和四三年四月一〇日再審被告と婚姻し、昭和四四年八月一三日長女はつ子をもうけたが、再審被告は、粗暴な性格で暴力行為、脅迫等の前歴が多数あり、右はつ子が生まれたころから再審原告に暴力を加えるようになつたため、再審原告はたびたび家出をし、再審被告と離婚したいと考えるようになつていたが、右はつ子がまだ幼かつたことや再審被告から暴力を加えられることを恐れて、同人との離婚に踏み切れないでいた。

(2) 再審原告は、再審被告が昭和五七年五月ころから胃潰瘍のため富田林市民病院に入院して手術を受け、長女はつ子も中学生になつていたことでもあり、この際再審被告と離婚しようと決意し、同年六月一五日、同病院の病室において、再審被告に離婚の申し出をしたところ、再審被告はこれを承諾し、再審原告の差し出した離婚届用紙の本籍欄、夫の父母の氏名及び父母との続き柄欄に自ら記入し、届出人夫の署名押印欄に署名押印した。

(3) そこで、再審被告は、同年八月一七日富田林市長に対し離婚の届出をする一方、長女はつ子とともに再審被告のもとを出て堺市○○○町○丁○○番地○○○○荘○○号室に転居して生活していたところ、再審被告は、同年一二月三日午後一〇時ころ、突然再審原告方に押しかけ、入室を拒否した再審原告に対し、「消火器でドアをぶち開けるぞ。」などと怒鳴つたため、再審原告において警察官の出動を要請し、警察官の説得によつてその場はおさまつた。

(4) 更に再審被告は、昭和五八年二月八日ころ、右○○○○荘○○号室の再審原告方に土足で上り込み、再審原告に復縁を迫り、再審原告を押し倒して首を締め、所携の手斧を示して「殺したる。」などと言つて脅迫したため、再審原告は再びそのような乱暴を加えられることを恐れ、同月一一日ころ、右居室を引き払い、かねて結婚の約束をしていた甲山を頼つて、柏原市○○×丁目○番○○号の同人方に転居した。

(5) ところが、右転居後も、再審被告が再審原告に電話をかけて「今晩殺しに行つてやる。」などと脅迫したため、再審原告と甲山は、同人が購入した同市○○○×丁目○○番○○号の家に転居したが、再審被告は、その後間もなく右転居先をつきとめ、同月二〇日午後四時ころ、右甲山方に赴き、甲山に対し、「花子とはまだ正式に離婚していない。結着がつくまで帰してくれ。」などと言つて迫つた。

(6) 再審原告は、ここで逆らうとまた再審被告が暴れ出して甲山に迷惑がかかつてはいけないと考え、いやいやながら再審被告方について行つたが、再審被告が暴力を振つて復縁を迫るだけで話し合いにならないので、「甲山のところへ帰る。」と言つたところ、再審被告が手斧を示して「帰るなら帰つたらええ。いつでも殺しに行つたる。」などと言つて脅したため、その日はそこに一泊し、翌二一日甲山方に逃げ帰つた。

(7) 再審原告は、同日午後八時ころ、再審被告方に電話をかけて長子はつ子に様子をきいたところ、同女が、「お父さんがえらい怒つて、殺しに行くと言つて斧を研いている。」などと言つたため、甲山と相談して、その夜は近くの旅館に宿泊して難を避けたが、再審被告は、翌二二日午前七時ころ、ロープの付いた碇を入れた手提鞄を持つて右甲山方に赴き、玄関ガラスを打ち破つて、土足のまま中に押し入り、その場に居合わせた甲山の母ツネに対し、「花子がおるやろ。どこへ行きやがつたんや。」などと怒鳴りつけ、同女の頭髪をつかんでゆさぶり、顔を床に叩きつけ、足蹴りする等の暴行を加え、同女に二週間の加療を要する頭部打撲、頸部捻挫、右前胸部打撲、右膝部打撲の傷害を負わせた。

(8) 再審原告と甲山は、再審被告が常に前記手斧(刃渡り一四・四センチメートル)や碇を持ち歩いており、右のようにその暴力がツネにまで及んだのを見て、いよいよ危険が迫つたものと畏怖し、同日から友人宅に身を隠したが、その後も再審被告が甲山の両親や妹方を訪ねたり電話をかけたりして再審原告の所在場所を教えるよう迫り、ツネに対し、「花子を帰さないとお前らを殺す。」などと言つたため、右傷害事件の捜査を担当していた柏原警察署巡査部長岡田靖宏にも相談したうえ、親きようだいにも所在場所を知らせず身を晦ましたため、それ以後は誰からも再審原告に連絡をとることができなくなつた。

(9) 再審被告は、その後本件離婚の無効確認の調停を大阪家庭裁判所堺支部に申し立て、再審原告は、郵便物を預つてくれるよう頼んでおいた前記○○○○荘の管理人から、右調停期日の呼出状を受取つたが、再審被告から暴力を加えられることを恐れて右期日に出頭しなかつたため、同年五月二日右調停は不調に終わつた。

(10) 再審被告は、同月九日原訴訟を提起したが、再審原告の住所として住民票に登録されていた前記○○○○荘○○号室宛に郵送された訴状、期日の呼出状等の書類が転居先不明で不送達となつたため、当裁判所は、再審被告の申し立てにより、同年六月三〇日、再審原告の住所、居所その他送達をなすべき場所が知れない場合にあたるとして公示送達を許可し、これに基づき訴状、期日の呼出状等の書類が公示送達により再審原告に送達され、再審原告が不出頭のまま審理が進められて、前記のとおり再審被告の請求を認否する原判決が言渡され、再審原告は、右判決確定後の昭和五八年一一月中ころ、原判決の存在を知るに至つた。

(11) 再審被告は、ツネに対する右(7)の行為により、昭和五九年四月一六日羽曳野区検察庁から傷害罪で略式起訴され、羽曳野簡易裁判所において略式命令により罰金一〇万円に処せられ、右略式命令は同年五月一五日確定した。

(二)  ところで、民訴法四二〇条一項五号後段は訴訟の相手方又は第三者の可罰行為により、訴訟の勝敗に影響する主張、証拠の提出を妨げられた場合を再審事由とするが、右(一)の事実によれば、再審原告は、再審被告の執拗な暴行脅迫、特にツネに対する右(7)の犯罪行為により危険が切迫したものと畏怖して身を晦ましたため、原訴訟の係属を知らず、自己に有利な主張、立証を提出する機会を奪われたものであるから、同条一項五号所定の再審事由があるというべきである。

(三)  しかして、民訴法四二〇条二項が、同条一項四号ないし七号所定の事由をもつてする再審の訴えについて、有罪の確定判決等同項所定の事実の存在することを要する旨規定しているゆえんは、このような再審の訴えを、再審事由の存在する蓋然性が顕著な場合に限定することによつて、濫訴の弊を防止しようとするにあると解せられるところ(最高裁判所昭和四四年(オ)第七九三号昭和四五年一〇月九日第二小法廷判決、民集二四巻一一号一四九二頁参照)、右(一)の事実によれば、再審原告が所在を晦ますに至つた直接かつ最大の原因である再審被告のツネに対する右(7)の犯罪行為につき有罪の裁判が確定したのであるから、本件再審については同条二項所定の要件を具備するものというべきである。

3  よつて、再審原告の本件再審請求は理由がある。

二本案請求について

1  <証拠>によれば、請求原因(一)の事実が認められる。

2  無効事由の有無について

(一)  <証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、<反証排斥略>、他のこの認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 再審原告は、かねてから再審被告との離婚を考えていたが、再審被告が富田林市民病院に入院した機会に離婚しようと決意し、昭和五七年六月一五日、離婚届の用紙を持つて再審被告の病室を訪ね、再審被告に対し離婚の申し出をしたところ、再審被告はこれを承諾し、右離婚届用紙の本籍欄、夫の父母の氏名及び父母との続き柄欄に自ら記入し、届出人夫の署名押印欄に署名押印して、これを再審原告に交付した。

(2) 再審原告は、右離婚届用紙の証人欄に自己の身内のSとHに署名押印してもらい、その余の欄に所要事項を記入し、届出人妻の署名押印欄に署名押印して離婚届を完成し、同年八月一七日富田林市長にこれを提出して受理された。

(3) 再審被告は、同年七月ころ、再審原告が再審被告を右病院に訪ねて就職のための保証人となるよう依頼した際、「あなたにそのようなことを頼まれる間柄ではない。」と言つてこれに応じなかつた。

(4) 再審被告は、同年八月、右病院を退院後間もなく、右離婚届が出されていることを知つたのに、そのときは、再審原告に対しなんら異議を述べず、法的措置もとらなかつた。

(5) 再審被告は、同年一一月一八日ころ、再審原告より株式会社○○○○に勤めるために必要な保証人となるよう依頼を受けるや、これに応じて、同会社に提出する念書の連帯保証人欄に「続柄友人」と記入したうえ署名押印し、その印鑑証明書を添えて再審原告に交付した。

(二)  右(一)の事実によれば、再審被告は、自らの離婚意思に基づいて離婚届に署名、押印したものであると認められるから、右離婚届に基づいてなされた本件離婚は有効である。

(三)  再審被告は、再審原告が病室に来てヒステリツクにわめき散らし、カーテンを引きちぎらんばかりにして離婚に応ずるよう要求したので、同室の患者に対する遠慮もあつて、再審原告を退室させるため離婚届用紙に形だけの署名をした旨主張し、再審における再審被告本人尋問の結果のうちにはこれに添う供述もあるが、この供述は右(一)で認定した事実に照らしてにわかに措信できず、他に右供述に添う証拠もないから、右主張は採用できない。

3  よつて、再審被告の本案の請求は理由がない。

三結論

以上のとおりであるから、原判決を取消して再審被告の本案の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(大須賀欣一 山浦征雄 細井正弘)

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